スタートは“技術”か“感覚”か?〜コンマ0秒の世界〜
ボートレースの世界において、スタートほど緊張感と興奮を生む瞬間はない。
6艇が横一線に並び、スタートラインに向かって一斉に加速する――あの「0秒の壁」を誰が制すのか。
ファンの視点でも、スタートは展開を大きく左右する重要要素であり、予想における肝とも言える。
では、スタートは“技術”で決まるのか?それとも“感覚”なのか?
今回はその問いに真正面から向き合いながら、選手の心理・データ・展開読みを絡めて深掘りしていく。
◆ スタートとは何か?改めて仕組みをおさらい
まず、基本的なことから。
ボートレースのスタートは「フライングスタート方式」。
0.00秒ちょうどでスタートラインを通過するのが理想であり、0.01秒でも早いと「フライング(F)」、逆に0.06秒以上遅れると「出遅れ(L)」となる。
展示航走では各選手が“本番さながら”のスタートを試すが、
実戦では気象条件、進入の深さ、他選手の動き、エンジンの回転などが絡み、スタート勘がズレることも多い。
つまり、「スタートは再現性の低い、一発勝負の芸術」なのだ。
◆ 数字が示す“スタート巧者”とは?
ボートレースの公式サイトなどで見られる「平均ST」は、選手のスタート傾向を知る上で重要なデータだ。
例えば、SG常連クラスでは平均ST0.13〜0.15あたりが標準。
0.12を切るような選手は“スタート巧者”とされる。
ただし、ここで重要なのが「早い=うまいとは限らない」ということ。
たとえば、以下のようなタイプが存在する:
- 攻撃型のスタート巧者(例:毒島誠、平本真之)
→常にトップスタートを狙い、0.10切りも多い。攻めの姿勢が展開を作る。 - 安定型のスタート職人(例:峰竜太、石野貴之)
→毎回0.13〜0.15で揃え、ピンポイントで勝負。スタート事故が少ない。 - スタートに波がある爆発型(例:西山貴浩、深谷知博)
→0.08もあれば、0.20台もある。読みが当たった時は鬼脚を見せるが、ムラがある。
このように、スタートは“安定感・攻撃性・信頼度”を総合的に判断するもの。
単純なタイムだけでは見えない“スタイル”がそこにある。
◆ F持ち選手の葛藤と、レース展開への影響
スタートの話で避けて通れないのが、「F持ち(フライング持ち)選手」の存在だ。
Fを1本でも持っていると、期末(出走期間)終了までは常に“スタート自重モード”となる。
つまり、無理して前に出ることができず、0.20近くの慎重なスタートになりがち。
このF持ち選手が1号艇やカドにいると、レースの展開予想が一変する。
「インが遅れてカドまくりが決まる」
「F持ちの2号艇が凹んで、3コースが差し切る」
そんなシナリオが現実的に起こる。
この点を予想に活かすには、以下のチェックが有効だ:
- 今節のスタートタイミング(最近の本番STは?)
- 展示STとの差(展示で踏み込めてるか?)
- 出走表の“F”表示の有無(F1、F2持ちは特に慎重)
- 他艇との並び(攻める選手が近くにいるか?)
これらを見ながら、「誰が攻めるか」「誰が受けるか」を考えるのが、展開読みの第一歩になる。
◆ スタートは“感覚のスポーツ”なのか?
では、最初の問いに戻ろう。スタートは“技術”か、“感覚”か?
結論から言えば、「技術を支えるのは、究極の感覚」だと思う。
ペラ調整、気温、湿度、エンジンの回転数、水面の揺れ…そういった変動要素を選手は一瞬で読み取り、身体で“今この瞬間が出られる”と感じて放つ。
これは、数字では測れない領域にある。
ベテラン選手が「スタートが読めなくなったら引退」と口にするのは、この“感覚”が鈍ると命取りだからだ。
逆に、若手選手がブレイクする瞬間は、「スタート勘が合ってきた」タイミングが多い。
その一瞬の“感覚”の違いが、0.01秒という世界に反映される。
まさにボートレースならではの、コンマの芸術だ。
◆ 予想に活かす「スタート読み」のコツ
ファン目線でスタートを予想に活かすには、以下のような視点がカギになる:
- 展示STと本番STの差をチェック
→展示で攻めてる選手は、本番も出てくる可能性大。 - カドの攻め手を見極める
→スタート巧者が4コースにいれば、まくり一閃も。 - “その選手の癖”を覚えておく
→スタートにバラツキがある選手は、波乱の鍵になる。 - スタ展での並びの微妙なズレ
→前付けの動きがありそうなら、進入深くなってイン苦戦も。
予想家や玄人が「この選手は行く」「このスローは深くなる」と口にするのは、こうした複合的な情報を総合的に読み解いているからだ。
◆ まとめ:スタートは読めるようで読めない、でも“読もうとする価値”がある
スタートは、データ・感覚・経験・心理…あらゆる要素が絡む“予測不能の予測”。
その不確実性こそが、ボートレースを面白くしている最大の要素でもある。
そして、スタートを深く読むことで、展開が見え、穴が見え、レースが立体的に見えてくる。
スタートが読めた時こそ、舟券の威力は最大になる。
“0.01秒を読む”という、一見無謀な試みに全力を注ぐ――
それが、ボートレースの予想を面白くし、ファンを魅了し続ける理由なのだ。
次回のコラムでは、「モーターの当たり外れと整備力 〜機力差は予想できるのか〜」というテーマでお送りします。
“出ているモーター”はどうやって見抜く? 整備巧者は誰? そんな機力差のリアルに迫ります。
どうぞお楽しみに!