茅原悠紀|沈黙のスナイパー、その冷徹な勝負手と機械仕上げの芸術性
ボートレース界には、豪快さで魅せる選手もいれば、情熱を前面に出す選手もいる。
だが、岡山支部のエース・茅原悠紀(登録番号4418)は、それとは真逆の存在。
どこまでも無表情かつ無感情に見えて、実は内に燃えたぎる情熱と高精度の戦術が息づいている選手である。
2014年のグランプリ制覇で脚光を浴びて以降、茅原は「勝つために必要なこと以外は一切見せない」姿勢を貫いてきた。
その走りは“静かなる一撃”。
今回のコラムでは、茅原悠紀のコース別の戦術・整備力・勝負勘に迫っていく。
茅原悠紀のコース別“勝負パターン”
■ 1コース進入時|正確無比、無音の逃げ切り型
- 進入率:約99%
- 1着率:約84%(SGでも80%前後)
- 平均ST:0.13
茅原の1コースは“派手さ”はない。だが非常に正確で安定感抜群。
スリットでは他艇と横並びでも、ターンマーク手前から“微差で仕掛ける”ハンドルワークに注目したい。
そして、どんな水面でも逃げ切る能力が高い理由は、整備による「出足+回り足」の完成度が高いから。
コメントでは「まあまあです」「普通ぐらい」としか言わないが、彼の“普通”は他選手の上位であることが多い。
■ 2コース進入時|冷静な差し、狂気のツケマイ
- 進入率:約98%
- 1着率:約27%
- 平均ST:0.13
茅原の2コースは差しメインだが、時折見せる“全速ツケマイ”が印象深い。
特に1コースの選手が伸び型で外に振れると読むと、スパッと握って先手を奪うこともある。
その判断はレース直前に変わることもあり、「読み」と「即決力」が共存しているのが茅原の強さだ。
ただし、外が攻めてくると見れば、しっかり差しに構える柔軟さもある。
2着率が高く、“着取り名人”として舟券の信頼度は極めて高い。
■ 3コース進入時|まくり差しのタイミング職人
- 進入率:約91%
- 1着率:約33%
- 平均ST:0.12〜0.13
このコースが、茅原の真骨頂とも言える位置だ。
特にまくり差しの精度が驚異的で、ターンマーク直前の「間を突く判断」が芸術的。
SGボートレースクラシック(2021年)では、3コースからまくり差し一撃で優勝戦進出。
その旋回角度と突入の呼吸は、まさに“無駄のない職人芸”だ。
スタートは無理せず、それでもピタリと0.12〜0.13を刻み、相手の出足とスリット隊形を読んでスッと間を抜けていく。
■ 4コース進入時|柔と剛のハイブリッド
- 進入率:約87%
- 1着率:約28%
- 平均ST:0.13
4コースではまくり・差しの比率はほぼ5:5。
風、波、展示気配、外枠のスタートタイミング…あらゆる要素を加味してどちらも迷いなく選択できる選手である。
まくると決めたときは全速握り、差すと決めたときはしっかり引き波を跨ぐ。
この“軌道の自在さ”が、茅原の4コースでの舟券妙味を高めている。
■ 5コース進入時|差しの名手、展開を読む鋭さ
- 進入率:約63%
- 1着率:約20%
- 平均ST:0.14
茅原の5コースは、展開を読む“スナイパー型”。
内が競ってると読むと一気にまくり差しのラインへ、逆に内が伸びてると見ると待ちの差しに構える。
2022年のチャレンジカップでは、5コースからバックストレッチで3艇を抜く逆転差しでファンを唸らせた。
決して一か八かに出ないが、勝負所では一気に勝負を仕掛ける“冷静な狂気”がここにある。
■ 6コース進入時|一発ではなく“3着・2着職人”
- 進入率:約40%
- 1着率:約8%
- 平均ST:0.14
6コースでも勝負を諦めない。むしろ2着・3着の回収力が非常に高いのが茅原の6号艇。
全速握りは少なめで、どちらかと言えばターンでの旋回と出足の掛かりを使った“展開読み”タイプ。
6号艇でも展示で伸び足を感じた場合は、果敢に握りにいくこともあり、「展示と気配次第では大穴を演出する」存在でもある。
茅原悠紀の整備スタイル|「違和感を消す」調整職人
茅原の整備力は派手ではないが、節間での“上積み”が非常に多い選手である。
特徴的なのは以下の3点:
- 重視するのは“乗り心地・出足の質感”
- 展示では“仕上げ前”を見せて、本番で完成形を出す
- ピット離れ・スタートの“初速感”を最重要視
特に「初日のコメントはあてにならない」選手として有名。
整備後半では、他艇が落ちてきても茅原の舟だけが“水面に吸い付くような回り足”を見せる。
また、ペラ調整の微差に極めて敏感で、「少しだけ叩いた」とコメントしたときほど走りが激変する傾向がある。
調整の引き出しが多く、「中堅モーターを上位に化けさせる」のが得意。
総括|茅原悠紀は、無言で“精度”を魅せる勝負師
一見すると淡々としているように見える茅原悠紀。
だが、その走りには計算され尽くしたライン取りと、整備で支えられた高い旋回力が詰まっている。
どのコースでも「自分の勝ちパターンを冷静に選び、迷わず仕掛ける」ことができる稀有な存在。
そして、整備においても感覚だけでなく、水面・湿度・時間帯まで加味した“理詰めの調整”で勝負している。
静かなるスナイパー。
だが、その一撃は、レースの流れを変える威力を秘めている。