深谷知博:すべてを“仕掛け”に変える、スピードと判断力のSGレーサー
“SG優勝経験者”という肩書きは、一人の選手を明確に一段上の存在へと押し上げる。静岡支部の深谷知博(ふかや・ともひろ)は、まさにその一人だ。
2020年・ボートレースダービー(大村)でSG初制覇。以降、記念戦線の常連として地力を発揮し続けており、スピードと技術に加え、冷静沈着な勝負勘であらゆる舞台に対応する“安定の総合型レーサー”としての地位を確立している。
一見控えめで落ち着いた印象ながら、レースになると一変。スリットの攻め、旋回の鋭さ、そして最後まで勝利を諦めない姿勢は、まさに一流の証。
本稿では、そんな深谷知博のコース別戦法、整備スタイル、そして総合的な選手像に迫っていく。
◆ 1コース:スタート力と旋回精度で押し切る“鉄板型の信頼枠”
深谷の1コースは、安定感と強気の押し出しを兼ね備えた“勝ち切るイン戦”である。スタートは全体的に速めで、平均STは0.12〜0.13前後。特に勝負駆けではコンマ0台で決めてくる集中力を発揮する。
最大の武器は、1マークでの先マイ精度と、旋回後の加速力の高さ。起こし〜スリットの加速がよく、先に回ればまず負けないターンが完成しており、モーターが出ていれば無類の強さを発揮する。
記念戦やSGでも1コース時の信頼感は非常に高く、“勝率を守るのではなく、攻めて勝ち取るイン戦”という意識がにじみ出ている。モーターが劣勢でも、整備でしっかり押し切れるレベルまで仕上げてくる点も強みだ。
◆ 2コース:差しだけで終わらない、冷静な仕掛けの幅
2コースの深谷は、“冷静に差す”タイプではあるが、それだけではない。スリットで他艇より出たと見るや、握っていく強気な判断もあり、まくりの成功例も多い。差し・握りの選択肢を状況で使い分ける柔軟性が大きな武器。
また、1マークで若干遅れた際にも、2マークで差し返す能力が高く、道中で着順を上げる“総合力の高い2コース”として、舟券面でも重宝されている。
記念戦では、2コースでの“勝負しない2着狙い”が顕著になる選手も多い中、深谷は常に「勝てる状況なら勝ちにいく」姿勢を貫いている。そこに、SG覇者としての自負と実力の裏付けが感じられる。
◆ 3・4コース:スピード旋回の真骨頂、“戦略的センター戦”
深谷知博の真骨頂は、やはりセンター戦だ。3コースからはまくり差しを主軸に、攻めも差しもできる万能型。スリットで先行すれば握ってまくり、やや出遅れても冷静に内へ舵を入れる判断力がある。
また、4コースではカドまくりを決める機会も多く、スタートでの仕掛けの強さと決断の速さが光る。スロー勢のスタートがばらけた瞬間、一気にスリットから伸びて捲っていくその姿は、まさに“スピードレーサー”。
特にSG・G1の準優勝戦で3・4コースを引いたときの期待値は高く、「センターの深谷」はシリーズのキーマンになると、舟券ファンからも厚い信頼を得ている。
◆ 5・6コース:展開を突く“後方の狙撃手”
外枠に回った際の深谷も、決して“消し”にできない実力者である。5コースではまくり差し、6コースでは差しや道中の捌きで着を拾うスタイル。とくに勝負どころでの展開判断が秀逸で、センター勢のミスを即座に突く判断力が光る。
6コースからの1着はさすがに限られるが、3着取り、時に2着突入といった“外でも舟券に絡む技術”がある。特に記念戦では「SG覇者なのに6号艇…でも怖い」といった警戒を受ける存在であり、実際にそれを裏付ける成績を残している。
道中でも落ち着いたターンを重ね、インやセンターが崩れたときに静かに、だが確実に順位を上げてくる──そんなレースぶりに、玄人好みの魅力が詰まっている。
◆ 整備力:出足・回り足重視、勝負どころに仕上げる実戦型
整備面において、深谷は“無理をしない堅実派”。伸びに寄せるタイプではなく、あくまでレースで戦える操縦性と出足のバランスを重視した調整を行う。
プロペラ調整に対する感覚が非常に鋭く、モーター素性を引き出す方向性を見極めるのがうまい。部品交換も必要に応じて実行するが、むやみに動かさず、計画性のある調整でシリーズ全体のリズムを作っていくのが特徴だ。
シリーズ前半では様子見で中堅にまとめ、後半からしっかり上積みを見せていくのが深谷の定番パターン。“初日より最終日のほうが強い男”という印象を抱くファンも多い。
◆ 総括:SG覇者の矜持と、次代を担うスピード派の完成形
深谷知博は、ボートレース界における“技術と判断の両立型”であり、派手なパフォーマンスよりも、勝負どころで結果を出す実力派として、SGクラスでも確固たる地位を築いている。
コースごとの引き出しの多さ、スタート精度の高さ、整備による安定感──どれをとっても非の打ちどころがなく、G1・SG戦線での活躍は“必然”と言える。
トップ層の壁を越えるには、“勝てるタイミングで一気に突き抜ける”勝負強さが求められるが、深谷ならそれができるだけの土台がすでにある。
冷静、しかし攻めるときは一気に攻める──深谷知博のレースは、技術と精神の研ぎ澄まされたバランスで成り立っている。