西村拓也:精密機械のごとき安定感、全方向に対応する“知性派レーサー”
ボートレースにおいて「クセがない」という言葉は、しばしば賛否を呼ぶ評価だ。しかし、その“クセのなさ”が武器となるタイプがいる。どのコースからでも崩れず、どんな相手にも対応できる。それが大阪支部の実力派・西村拓也(にしむら・たくや)である。
近畿地区の選手らしいキビキビとした旋回、SGでも通用するスタート力、着順をまとめる安定感。地味ではあるが、舟券面で見ればこれほど頼りになる選手も少ない。
派手に攻めて喝采を浴びるタイプではないが、勝つために必要な判断と整備、そして実行力を着実に積み重ねる“理詰めの勝負師”。今回は西村拓也のレーススタイルを、コース別戦法・整備力・総括の3本柱で詳しく解説していく。
◆ 1コース:堅実そのもの、“負けない”ための仕上げと逃げ
西村の1コースは、スタートの早さで決めるというよりは、失敗しない旋回と回り足重視の整備で押し切る逃げが基本。スタートタイミングは0.13〜0.16とやや控えめだが、伸びられず、まくられないラインを見極めた的確なスリット構成が光る。
旋回は外に流れず、艇を内に締める“引き締まったターン”が特徴。出口での立ち上がりが強いため、差されそうになっても2マークで突き放す二段構えがある。
ピット離れに不安のあるモーターであっても冷静に対応でき、安定感のある1着率を保っている。「飛ばない1コース」としての評価は非常に高い。
◆ 2コース:差しに徹した展開型、2着以上を狙う手堅さ
西村の2コースもまた、「崩れない」を体現する代表的な戦法が見られる。1マークでは無理に握らず、最短距離を確保する差し構え。1号艇が外に流れれば即座に突き、1着。締められても艇を立て直して2・3着を確保する安定感がある。
差し切れなかった時の2マークでは、内を突いて詰めるか、外に回して立ち上がりで勝負するかの的確な判断と選択肢の豊富さが武器。舟券的にも2コースの西村は“軸にしやすい”選手として支持されている。
また、強引な握りに出ないため、他艇との接触リスクも低く、シリーズ通してリズムを崩さないという点でも非常に計算しやすい存在だ。
◆ 3・4コース:握るタイミングの精度、“攻守自在”の中枢戦
センター戦の西村は、“自在型”の真骨頂が最も発揮されるコース。3コースからはスリットの気配を見て、覗けばまくり差し、揃えば差しというように、レース直前に最適な戦法を選ぶ傾向が強い。
4コースでは、角を取って攻めるよりも、展開を読んでまくり差し・差しで位置取りを優先するケースが多い。スピード旋回よりも艇の向きと出足で勝負するため、競り合いにも強く、2・3着をしっかり拾ってくる。
また、センター勢が攻めあぐねるようなスロー進入では、まれに西村がレースを壊しにかかる“鋭い握りマイ”を見せることもあり、その“攻守のバランス感覚”は見事というほかない。
◆ 5・6コース:拾い上手な外枠巧者、軽視禁物の外の雄
西村の外枠戦は、一言で言えば「消せない5・6号艇」。5コースでは、センター勢の仕掛けに対してきっちりとまくり差しを放ち、先頭に食い込むシーンも。スタートが安定しているため、展開の波にうまく乗れるのが強みだ。
6コースからも決して後方には沈まず、2マーク勝負で3着を拾う“実戦力”がある。スロー凹みの展開では握って飛び込む選択肢もあり、「6枠でも舟券に絡む可能性が十分ある選手」として知られている。
また、枠なりを基本としながらも、外枠で進入が乱れるレースでもポジションに応じて無理なく対応できる順応力があり、混戦・波乱含みのレースでこそ頼りになるタイプだ。
◆ 整備力:仕上げる力に長けた実戦派、“中堅上位”への引き上げが巧み
整備において、西村は突出した“伸び足”よりも“レースで戦える足”を作るタイプ。出足・回り足のバランスを重視し、舟の立ち上がりやターンの安定感を大切にする。
モーターが悪いときも、2~3日目にはしっかり中堅まで持ってくる整備力があり、シリーズを通してじわじわと気配を上げてくるパターンが多い。また、プロペラの微調整にも敏感で、展示気配の良化が如実に成績に反映される選手でもある。
G1・G2などの記念戦では、整備で大きく跳ねるよりも「確実に戦える足」を目指す現実路線。その結果、予選を着実に突破して準優進出、あるいは優出するケースも少なくない。
◆ 総括:爆発力ではなく、安定の完成度。勝ち切るより“負けない”選手の極致
西村拓也は、派手なレースをする選手ではない。だがその分、どんな条件でもレースを崩さず、“常に舟券に絡んでくる”存在感と安定感がある。
1号艇で逃げ、2コースで差し、3〜4コースで自在に立ち回り、5・6コースでも拾う。――まさに「万能型オールラウンダー」の完成形といっていいだろう。
特にG1戦線では、“準優進出の壁”を常に乗り越える勝負強さがあり、着をまとめる力が高いことから、本命党にも穴党にも“買われる存在”である点も特徴的だ。
今後、さらにSG戦線での躍進も期待される選手であり、着実にキャリアを積み重ねていくそのスタイルは、“若手のお手本”としても評価される存在になりつつある。