中田竜太：剛と柔を併せ持つ“関東の精密派”、勝負所で牙を剥く知性と決断力

「抜群のスタート力」でもなく、「破壊力あるまくり屋」でもない。
しかし、勝負どころではなぜかいつも上位にいる――。
そんな独自の存在感を放つのが、埼玉支部の実力者・中田竜太（なかだ・りゅうた）である。

特徴は、戦法の柔軟さと整備の的確さ、そしてリスクを抑えつつ勝負に出る“冷静な勝負勘”。どんな展開でも沈まずに舟券に絡んでくる安定感がありつつ、攻めの場面では迷わず行ける決断力も併せ持つ。

今回は中田竜太の魅力を、「コース別の戦法」「整備力」「選手としての総括」という3本柱で詳しく掘り下げていく。

◆ 1コース：セオリー重視、負けないための逃げ型

中田の1コースは、「失敗しないターン」と「スリットの読み」を軸に組み立てられた、セオリー通りの正統派イン戦。コンマ10台の平均的なスタートで、無理な踏み込みは少ないが、その分スタート後の出足と回り足を重視した調整で押し切るパターンが多い。

1Mで外に流さず、確実に回る旋回技術により、たとえスリットでやや遅れ気味でも展開を潰さずに逃げ切るケースが目立つ。外から攻めが来る気配があるときも、艇を締めて進路を塞ぐような対応力があり、非常に“負けにくい1号艇”と言える。

派手さこそないが、信頼感という面ではトップクラスの1コース巧者だ。

中田の2コースは、展開読みのセンスが光る。1号艇の足が強ければ迷わず差し、スリットの並び次第で握りマイを選ぶことも。どちらかといえば差し主体だが、“握っても残せる”回り足の調整がベースにあるため、スタート後の一瞬の判断に対応できる幅が広い。

2M以降の対応力も高く、差しが入らなくても2Mで立て直して2着・3着に残るシーンが多い。特に狭い隙間を突くような“小回りの妙”が得意な選手で、ボートレース場ごとの水面特性にも順応力を発揮している。

センター戦に入ると中田の真価がより発揮される。3コースからは、スリットで覗けば一気のまくり差し、外が攻めてくると読むと差し構えと、臨機応変な“柔の攻め”が持ち味。

4コースからも握る・差すのバランスが非常によく、スリットからの仕掛けが成立しそうならまくり差し、攻めが難しければ2M勝負に切り替える。どちらにしても、道中で着順を落とさない冷静さが大きな武器となっている。

また、スタートが揃った中でも、“自分の艇だけ前に出る”ような調整力とタイミングがあり、センター戦での1着率・連対率が高いのも納得のデータだ。

外枠では派手に飛び込んでいくタイプではないが、展開を読むセンスと差しに回る冷静さが強み。特に5コースでは、まくり差しの精度が高く、バックで2番手につけるレースも多い。

6コースからはさすがに厳しいが、内枠がもつれていれば躊躇なく差し場を狙って入ってくる。スローの攻めに乗って浮上することもあり、「軽視は禁物の外枠戦術家」という印象が強い。

また、道中での接戦も強く、2Mや最終ターンで内外どちらでも勝負できる技術力を持つ。勝ち切りこそ少ないが、舟券に絡む頻度は非常に高い。

整備に関して中田は、派手な伸び型に仕上げることはほとんどなく、回り足・出足の実戦型に徹するタイプ。旋回力を活かせるような仕上がりを第一に考え、特にSGやG1といった高レベルのシリーズでも、他を凌駕するような“旋回の粘り”を見せることがある。

シリーズ中盤以降、足色が一気に上昇するケースも多く、特にモーターが中堅以上であれば、整備で上積みしながら“勝負仕様”に近づけてくる能力が高い。

また、プロペラ調整で微調整を繰り返し、レース本番での体感重視の調整を施す傾向にある。整備によって“自分の戦法に持ち込める足”を作るのがうまい選手と言えるだろう。

中田竜太の強さは、爆発的な何かがあるわけではない。だが、すべての項目が高水準に揃っている“完成度”こそが最大の武器である。

どのコースでも崩れず、無理な攻めをせず、それでいてチャンスがあれば即座に攻め切る勝負勘。道中で着順を落とさず、コース取りにも柔軟に対応し、足合わせによって上昇してくる整備力。

派手なヒーローではなく、水面で確実に勝負を積み重ねる本物の“実力派”。そんな中田竜太のスタイルは、SG・G1戦線で安定して結果を残すための“現代型スタンダード”と言ってもいいだろう。

地味だが間違えない、静かに強い――そんな新時代のボートレーサーの象徴として、ますます目が離せない存在である。