Boat-Practice

椎名豊:多彩な展開力と安定感が武器の“戦略型オールラウンダー”

「攻めるべきか、守るべきか」――ボートレースは一瞬の判断で勝負が決まる世界。その中で、どんな枠でも自らのベストを導き出せる選手はそう多くはない。
群馬支部の技巧派・椎名豊(しいな・ゆたか)は、まさにその判断力と柔軟性を兼ね備えた存在である。

2022年のオーシャンカップでSG初優勝を飾り、一気にトップ戦線に名乗りを上げた実力派。派手なスタート型ではなく、状況に応じて冷静に展開を読み切る“戦略型オールラウンダー”として、その存在感を高めている。

今回は、椎名豊のレーススタイルを「①コース別戦術」「②整備力」「③総括」の3本柱で掘り下げていく。


◆ 1コース:安定感抜群、“仕上がっていれば無敵の逃げ型”

椎名の1コースは、平均スタート0.13前後で安定し、スリットから無理せず押し切る“インの職人型”。特筆すべきは、足の仕上がりに関わらず冷静なターンで逃げ切る力がある点だ。

強風や進入トラブルがあっても、1マークを制してしまえばその後は危なげない逃げ切りパターンに持ち込む。2マークの処理も丁寧で、逆転を許さない巧さも光る。
信頼度の高い1号艇として、記念戦でも「逃げ=舟券軸」の安心感を持たせてくれるタイプだ。


◆ 2コース:差しも握りも高水準、展開に応じて変幻自在

2コースからの戦法は、スタートの並びや展示気配を見て差しか握りを選択するオールマイティ型。スリットで覗けば強気に握る判断もでき、差しを選ぶ場合でも最短距離で勝負する。

重要なのは、どちらにしても“中途半端がない”こと。握るなら握る、差すなら差すと、はっきりとした戦術を選ぶため、レース全体が引き締まり、結果的に道中でも崩れにくい。

道中の粘りや、2マーク勝負での逆転力もあり、「2着固定」での舟券信頼度は記念戦でも高水準


◆ 3・4コース:自在戦の極意、まくり差し&差しの“現代型センター巧者”

3コースではまくり差し、4コースでは差し構えを基本に、展開を読み切る冷静さと攻め気の絶妙なバランスが椎名の魅力。センター戦では無理に握らず、自分の足色に応じて差し/まくり差しを使い分ける戦術眼が光る。

特にG1・SG戦では、センターからのまくり差しで浮上し、バックで他艇を追い抜くパターンが多い。足が良ければ握る選択もできるため、“何でもできるからこそ崩れない”という信頼感につながる。

スタートは特別速いわけではないが、その分スリット後の位置取りで勝負できるため、記念でも侮れないセンター巧者といえる。


◆ 5・6コース:展開対応力と捌きで“外枠でも買える選手”

外枠でも舟券に絡む力があるのが椎名の大きな特徴。特に5コースでは、センター勢が攻めた後の展開を突いて、まくり差しで2着・3着に食い込むパターンが非常に多い

6コースでも無理に握らず差しに構え、道中でインやセンターを差し返して粘る勝負強さが光る。展示気配が良い時や、舟足が回ってきているタイミングでは、6コースからでも2着以上が狙えるタイプだ。

どのコースでも冷静に立ち回れるため、外枠でも「3着固定」以上の期待値がある存在として重宝される。


◆ 整備力:レースで勝つ足を整える、“回り足+安定型”

椎名の整備は、実戦で勝つための“回り足・出足”重視型。スリットで突き抜けるような伸び足は多くないが、ターンでしっかりと回せる足を仕上げる力がある。

特徴的なのは、シリーズを通じて足を育てていくタイプである点。初日は中堅クラスでも、2日目・3日目と調整を進めて中堅上位〜行き足良好の仕上がりに変化していく。

また、道中の立ち回りを活かすために、“全体バランス”を整える整備方針が徹底されているため、トラブルがあっても立て直しやすく、予選突破力の高さにつながっている。


◆ 総括:実戦力に裏打ちされた“勝てるオールラウンダー”

椎名豊は、SG・G1の舞台で“穴にならないが崩れない”安心感を提供できる選手である。派手な仕掛けをしないが、それは逆に「勝負を冷静に見極めている」証拠でもある。

  • 1コースで逃げ、2コースで差し
  • 3・4コースでは自在戦、5・6コースでも展開勝ち
  • 整備では回り足重視で全体を整える

このように、どこからでも“最も理にかなったレース”ができるオールラウンド型であり、現代の高速化したボート界で求められる“実戦対応力”に長けた選手だ。

SGタイトルホルダーという実績もその裏付けであり、今後も記念戦線で“準優常連・優出候補”として存在感を放ち続けるだろう。

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