Boat-Practice

平本真之:完成度と攻撃力を兼ね備えたオールラウンダーの真価

ボートレース界において「器用貧乏」と評される選手は多い。しかし、真の意味で「器用」な選手とは、どのコースからでも着をまとめ、必要なときには勝ち切れる選手を指す。その代表格の一人が、愛知支部の実力者・平本真之(ひらもと まさゆき)である。

平本は1984年生まれ。デビューは2005年で、20年近いキャリアを重ねてきた。持ち味はその高い完成度と判断力。記念戦線を中心に活躍する一方で、G1やSGでは常に安定して上位を争う。今回はそんな平本真之の強みを、コース別の戦法、整備力、総合的な評価の観点から掘り下げていきたい。


1コース:王道のイン逃げに加えた“変化球”

1コースの平本は、スタート巧者というよりもスリット後の機力の引き出し方が巧みなタイプ。平均スタートは0.13〜0.15前後と、特別速いわけではないが、外に張られにくい起こし方や、センター勢の握りに反応する冷静さが際立つ。

注目すべきは、ターンマークの旋回精度。機力に不安があるときでも、1マークで内寄りをしっかり回り切り、2マークで押し返す展開を作ることができる。この対応力が、記念戦線で1着率を高水準に保つ理由の一つだ。

イン勝率は概ね65〜70%と、記念レーサーの中でも高め。派手さはないが「負けない1コース」としての信頼度は高い。


2コース:差し・まくり差しを使い分ける“器用派”

平本の2コースは、単なる差し屋では終わらない。センターが攻めたときのまくり差しの精度が高く、特に直線系統の良いエンジンを仕上げたときには、出足とターン足のバランスを生かした攻撃が光る。

2コースの着取りは安定しており、2着〜3着でまとめる能力に長けている。F持ちや調整不足のときには無理せず差しに構え、逆にスリットが揃えば自ら勝負に出るレースごとの見極め力が持ち味だ。


3・4コース:自在戦の真骨頂

平本のキャリアの中で、最も光るのが3コース・4コースからの戦い方だ。3コースでは握ってまくるのか、差しに構えるのかを的確に選択し、まくり差しに入ったときの旋回軌道が非常に美しい。ターンマークに沿ったコンパクトなラインを取りながら、出口で一気に加速する様は「技術の塊」ともいえる。

4コースからのまくり差し、カドまくりも効果的。無理に攻めない冷静さと、攻めたときの破壊力を併せ持つのが、平本の強みだ。

また、これら中コースからの勝負では、レース前の展開予測力も光る。1号艇のクセ、2コースの差し屋の有無、5・6コースの握り屋の存在などを総合的に読み解いたうえで、自らのスタンスを決めている印象がある。


5・6コース:展開を読む冷静さと技術の融合

外枠からの平本も、侮れない。特に5コースでは、前付けが入って展開がもつれたときに冷静に内を突く判断力が光る。6コースからでも展開次第では舟券に絡む力があり、まくり差しや抜きで3着をしっかり拾ってくる。

もちろん、外からの勝率は高くないが、勝負賭けやシリーズ終盤など、重要な局面では一発がある点がポイント。大舞台での6号艇1着も数例あり、「6コースだから消し」と簡単に見切れないレーサーである。


整備力:トレンドに流されない職人肌

平本の整備の特徴は、「機力の底上げより、操縦性を重視する」スタイル。近年の記念戦線では、出足型や行き足型の調整に分かれる中、平本はターンマークでの操縦性を徹底的に整える傾向にある。

たとえば、伸びが出ないモーターでも「乗り心地が良い=着は取れる」といった信念を持ち、プロペラ調整や部品交換の方向性も非常に明快。整備時間を使っても焦らず、“乗れる状態”を追求する集中力が、記念での連続優出を支えている。

また、部品交換に対しても慎重。ギアケースやキャリアボデーの交換を嫌がらず、むしろ「手応えがなければ大胆にいく」潔さもあり、経験に裏打ちされた整備眼はトップクラスといえる。


総括:勝ちに徹する安定派、その中に潜む勝負師の一面

平本真之を一言で表せば、「勝てるときに勝ち切る、負けないレースができる選手」だ。勝率や記念実績から見てもその実力は折り紙付きで、特にオールスターや周年記念ではファン投票常連の人気と実力を兼ね備えている。

SGでの優勝はまだ成し遂げていないが、それでも毎年SG優出や準優出を繰り返す安定感は他の追随を許さない。近年では丸野一樹や白井英治といった“新旧のスピード型”が注目される中、平本のような「技術と経験で走るレーサー」は、シリーズの深みを支える存在でもある。

平本のレースには、爆発的なスピードはなくとも、勝負どころでの落ち着きと的確な判断、冷静なさばきがある。そして、それこそが長年記念戦線に居続ける最大の理由だ。

SGタイトル獲得の夢は、ファンだけでなく本人にとっても目標であろう。だが、平本真之というレーサーの真価は、タイトルの数では測れない。彼の走りには、若手にはない熟練の技術と、勝負師としての美学が詰まっている。

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