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平高奈菜:スピードと美学を兼ね備えた、女子レーサーの“革命児”

「女子戦の顔」として語られる選手は何人もいる。しかし、平高奈菜(ひらたか・なな)のように、「男子戦でも戦える強さ」と「魅せるレーススタイル」を両立している選手は極めて稀だ。

A1級定着からすでに10年以上が経過。G1を含む数々の実績に加え、女子戦はもちろん、男女混合G1でも通用するスピードと勝負勘を持つ。

加えて、愛らしいルックスや発信力もあり、ファン層の厚さは女子レーサー屈指。ただし、それ以上に注目すべきは、攻めの姿勢を崩さず、勝つことに妥協しない“アスリートとしての姿勢”である。

本稿では、そんな平高奈菜のコース別傾向、整備スタイル、そして総合的な人物像に迫る。


◆ 1コース:女子屈指の信頼度、勝つべくして勝つイン戦

平高奈菜の1コースは、女子戦では鉄板級の信頼度を誇る。スタートタイミングは安定しており、0.13〜0.15前後で踏み込むケースが多い。とくにスローからの起こしが巧みで、スリット後に出て行く“行き足”の良さが際立つ。

ターンの旋回軌道はやや外気味に取るタイプだが、これはスピードを殺さずに握って押し切るスタイルを徹底しているため。それでも流れることは少なく、出口の立ち上がりで舟を前に出す技術に長けている。

モーターが出ていなくても、レース前の調整でしっかり仕上げてくるケースが多く、インから崩れることは少ない。とくに女子G1やオールレディースでは、1号艇なら「買って当然」と言える存在。

ただし、伸び型選手や地元の快速型に外を取られると苦戦することもあり、記念戦では“完勝”というより“しぶとく逃げる”印象が強い。


◆ 2コース:差しだけでない、勝負を狙う“積極型2コース”

平高の2コースは、差しと握りの選択が柔軟で、非常に読みづらいコースである。スタートで出られるとすぐに握って勝負に出る場面もあり、いわゆる“守りの2コース”ではない。

ただ、ターン技術が高いため、差しに構えたときでも非常に小回りで回り切れるため、2〜3着で残す力がある。勝負駆けの場面では、差しではなくまくり差しで逆転を狙う判断力もあり、非常に“勝負勘”の高い選手であることが窺える。

女子レーサーの中では珍しい、「2コースでも攻められる存在」。そのため、展開次第では1着もあり得るポジションで、舟券的にも外せない位置だ。


◆ 3・4コース:スピード戦の真骨頂、握って魅せる“勝ちにいく旋回”

平高奈菜の代名詞とも言えるのが、センター戦からのスピード旋回。3コースではまくり差し、4コースではカドからのまくりが主軸だが、いずれも“握って勝負する”スタイルが徹底されている。

特に、センターからのスタート勘には定評があり、トップスタートから豪快に捲っていくシーンは男子選手さながら。まくり差しに入ったときの舵の入れ方や立ち上がりの鋭さは、まさに技巧派のそれである。

また、握ったターンでも膨らまず、出口で鋭く舟が返ってくるため、“攻めて届く”センター戦が多い。勝負所での3・4コースは、他の女子選手とは一線を画す「主役になれる枠」と言えるだろう。

記念戦でもこの位置から1着を奪っており、「女子だから差す」「女子だから着拾い」という固定観念を打ち砕いてきた。


◆ 5・6コース:展開を突く冷静さと、技術に支えられた3着力

外枠の平高も、簡単には消せない存在。5コースでは、まくり差しに構えることが多く、センター勢が競り合ったときには内に切り替えて一気に浮上するケースが目立つ。

6コースではさすがに勝率は落ちるが、それでもスリットからの踏み込みとターンの鋭さで3着に絡む力は十分。特に、風や水面状況の変化が大きい場面では、持ち前の操縦技術で不利なコースでも対応できるのが強み。

つまり、女子戦に限らず男女混合戦でも、外枠で無条件に切っていい選手ではない。平高の舟券で重要なのは、「位置より調子とモーター」であり、6コースでも展開ひとつで怖い存在になる。


◆ 整備力:直線より旋回を重視、実戦派の微調整型

整備面において、平高は“実戦を重ねて仕上げる微調整型”。大胆な部品交換は少なく、プロペラ調整を中心に、乗り心地と旋回性能を引き出すスタイルが基本。

特に、出足と回り足のバランスを重視しており、「自分のターンができる状態」になってからが勝負と考えている。記念やSGでは、直線型に比べるとやや伸び負けする場面もあるが、逆に女子戦ではその調整が安定感につながっている。

モーターの引きによっては、整備で化けるというより「及第点を作って勝負する」タイプ。これはある意味、平高のターン技術と判断力に絶対的な自信があるからこそできるスタイルである。

また、初日〜2日目である程度の仕上がりを見せており、シリーズ中にガラリと変えるより、初動でしっかり基盤を作る整備計画も特徴的だ。


◆ 総括:“女子の枠”に収まらない、真の実力者

平高奈菜を女子レーサーとひとくくりにするのはもったいない。彼女は、スタート・旋回・展開力・整備力のすべてにおいて、高水準で完成された“実力レーサー”である。

華やかな印象とは裏腹に、レースでは極めて冷静で、勝負どころでの判断力はトップクラス。男子選手を相手にしても、引くことなく攻め切る姿勢は、まさに女子レースの枠を超えた存在感を放っている。

さらに、女子戦線では後進の憧れとしても認知されており、その影響力は競技外にも波及している。スタイルもレースも“魅せる”ことにこだわるその姿は、ファンのみならず、競艇界全体に与える刺激も大きい。

今後のテーマは、“女子トップ”から“SG常連”への飛躍。技術・実績ともにそれは現実的であり、平高奈菜のキャリアは、今まさに新たなステージに入ろうとしている。

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