平山智加：勝利に恋するスナイパー

「女子選手だから」ではなく、「一人の強いレーサーとして」評価される選手は、ボートレース界でも一握りだ。その数少ない存在の一人が、香川支部・平山智加である。

SG優勝歴こそないものの、G1戦線では男女混合の舞台でも幾度となく活躍し、女子トップレーサーとして常に名を連ねてきた存在。特にそのターン技術、コース取りの巧さ、勝負勘の鋭さは、男子レーサーにも引けを取らないレベルにある。

このコラムでは、平山智加のレーサーとしての特性を、コース別の戦い方、整備力、そして総合的な人物像から分析する。

◆ 1コース：女子戦トップクラスの安心感と完成度

平山智加の1コースは、女子レーサーとしてはトップ級のイン勝率を誇る。平均スタートは0.15前後と極端に速くはないが、起こしからスリット、そして1マークへの進入の一連の流れが極めて安定しているのが強みだ。

スタートで飛び出すというより、スリット後にじわっと伸びて先マイを取るレースが多く、1マークの旋回精度も高い。外から握られても外に流れずしっかり内に残し、ターン出口での舟の押しがしっかりしている。

特に女子戦においては「イン＝鉄板」と言えるほどの信頼感があり、1着率は70％を超えることも。ただし、モーター素性が悪く整備が間に合っていないときは、やや旋回に不安を残すケースもあり、1コースでも軽視できない調整状況の見極めは必要だ。

平山の2コースは、差しの技術に優れた“狙える2コース”。女子レーサーの中には「2コース＝守り」と割り切るタイプも多いが、平山は違う。差しだけでなく、相手の弱みを見てまくりにも切り替える柔軟さを持っている。

彼女のレースの特徴は、1マークでの判断が早く、迷いがないこと。1コースが甘ければすぐに攻めに回るし、きっちり逃げられる展開であればリスクを負わず着をまとめにいく。

そのため2コース成績は安定しており、舟券的には2・3着軸に組みやすい存在でもある。また、ターンマークでの舵角の取り方が非常に滑らかで、差しに入った後の加速が他の女子選手と一線を画している。

3・4コースからの平山は、展開を読む目とターン力が際立つ。3コースでは、まくりに行くケースは少なく、まくり差しの決まり手が多い。相手のスリット隊形やスピードを見ながら、自分がどこに入るべきかを瞬時に判断する能力に長けている。

4コースでは、カドに構える際も「握って一気に勝負」より、「引き波を越えて入ってくるまくり差し」タイプ。それゆえ、カドからのまくり勝ちは少ないが、安定感ある着取りと、展開に乗った2着・3着率の高さが魅力。

特に記念クラスのレースでは、センターからの一発を狙うよりは、他艇の動きを予測して“すき間を突く”冷静な判断を重視している印象がある。

外枠に回った平山も、着を拾う技術と展開の見極めで舟券に貢献してくれるレーサーだ。5コースではまくり差しの判断が鋭く、センター勢が競り合った展開でスッと最内を突くセンスがある。

6コースになるとさすがに勝率は落ちるが、記念戦でも3着に食い込むだけの安定感と技術がある。特に、レース序盤での位置取り、引き波処理能力、そして落ち着いたターンマーク処理は、女子選手としては抜群のレベル。

一般戦では6号艇からの連対も多く、「外枠でも買える数少ない女子選手」として、穴党からも支持されている。

整備面において平山智加は、「無理をしない、安全志向の調整」が特徴。伸びよりも出足・回り足を重視し、あくまで自分のターンができるかどうかを基準に調整を進める。

プロペラ調整は手慣れており、部品交換についても、必要であればピストンやギアケースの交換も臆せず実行。ただし、極端な整備で勝負に出るタイプではなく、実戦を通して微調整を積み重ねていく“安定型の整備”がベースにある。

調整がハマったときの彼女の出足は見違えるように良くなり、1マークでの“グッ”と押す回転力あるターンが戻ってくる。こうなると、平山は一気にシリーズを引っ張る存在となる。

平山智加というレーサーを語るとき、「女子レーサーとして」という枠組みでは不十分だ。彼女は、男子相手の記念戦でも十分通用するだけの旋回力、展開判断、整備力、そして勝負勘を兼ね備えている。

時に“勝ちに貪欲”すぎるがゆえに評価が分かれることもあるが、それだけ本気で競技に向き合っている証拠でもある。表情やインタビューでは柔らかさがありつつ、レースになると冷静で計算されたターンと、勝負をあきらめない姿勢がにじみ出る。

また、女子レーサーの技術レベルの底上げを牽引してきた存在でもある。今後も、後進の女子選手の目標となりながら、SGの舞台で男子を倒す姿をファンは期待している。

平山智加は、“女子選手にしては強い”のではない。“レーサーとして強い”のだ――。