Boat-Practice

井口佳典|“銀河系軍団”の中核を担う、完成度の高い現場型レーサー

三重支部のエースとして、活躍してきた井口佳典。
85期の「銀河系軍団」の中心人物であり、同期の攻撃型レーサーと比べると、ややクールな印象すら受ける。
しかし、その走りは徹底して戦略的で、水面上で勝つための最適解を常に出してくる実戦型レーサーである。

その勝負スタイルは、どのコースからでも一定の結果を残し、節間で確実に舟足を仕上げ、そしてスタートをしっかり決めてくる。
ここでは、井口選手のコース別戦術、整備アプローチ、勝負観を軸に、彼の強さを改めて掘り下げていく。


コース別戦術傾向とスタート・技術的特徴

1コース|イン屋の王道、逃げ切りの精度が高い

井口の1コースは、トップスタートを無理に狙うよりも、“最も確実に勝てるスタートライン”を見極めて踏み込んでくるスタイル。
スローからコンマ13〜14でしっかり決めたうえで、1マークの旋回で横一線になっても、必ず先マイできる舟足に整備してくる。
何より、ターン出口での艇の向きと再加速のスムーズさが、逃げ切り成功率を大きく支えている。

舟券面では非常に信頼度が高く、展示タイムが目立たなくても本番では“やるべきことを全てやってくる”選手である。


2コース|差しのタイミングと技術に長けた一流差し屋

2コースからは、無理をしない構えと鋭い差し技術が光る。
スタート後に相手の回り方を見て、差しとツケマイの判断を一瞬で切り替えられる点が大きな特徴。
艇の旋回軌道が非常にシャープで、差した後の直線でも力強く押し返してくる。

SGや記念戦でも、2コースからの舟券信頼度は常に高く、上位常連組の中でも「差して勝てる2コース屋」として定評がある。


3コース|握る・差すをレース中に判断する構築型センター戦

井口の3コースは、状況対応力が非常に高い。
スタートで出ていればまくり、揃っていればまくり差し、混戦模様であれば差し構え。
この“走りながら判断する力”が彼の強みであり、センター戦で勝負強さを発揮する理由でもある。

特に、全速ターン後の出口加速で伸びる仕様に整備してくる傾向があり、「ターン後に伸びている井口」は勝率が跳ね上がる。


4コース|勝負所で光る冷静な差しと捌き

4カドを取った際は、無理に握って外を回すというよりも、内の展開を見て差し・捌きを選ぶ冷静なスタイル。
それゆえに1着率こそやや控えめだが、舟券への絡み方は常に安定。
特に4コースからの2・3着構成を軸とする買い方では、長期的に回収率の高い選手である。

伸び型に仕上げた場合には、一撃も可能。展示で良タイムが出ている場合のカド井口は要警戒だ。


5・6コース|勝ちを拾う構えと道中力の高さ

外枠からでも勝負を諦めず、展開を待ちつつ、道中で逆転してくる構えを取る。
6コースからの1着率はそこまで高くはないが、3着までにしっかり絡んでくるレースが多く、荒れた展開でも“なんとかなる”と舟券に組み込みやすい。

全体的に見て、井口は「外枠では突き抜けずとも舟券には絡むタイプ」であり、まくり差し・差し返しを使い分ける技術の高さが光る。


整備力と適応力|理論と感覚を融合させる「現場型テクニシャン」

井口佳典の整備スタンスは、単に「仕上げる」だけではない。
彼は“どう勝つか”という戦術と、“どう仕上げるか”という整備の方向性をセットで設計できる数少ない選手である。

特に特徴的なのが、以下の3点。

・プロペラ調整が極めて的確で、初動の反応を重視した“足合わせ型”ではなく“実戦型”
・整備コメントで「回ってない」と言いつつ、本番では回し切る仕様に仕上げてくる巧さ
・伸びに寄せるか、出足に寄せるかの“振り切り”が明快で、節間の修正力が高い

展示気配で他選手にやや劣っていても、レース本番ではターン出口の立ち上がりと押し切り感が目に見えて改善されていることが多い。
つまり、調整に“結果が出る”選手であり、節が進むほどに舟足の完成度が高まっていく傾向が強い。

さらに、整備の仕上がりにスタートタイミングを合わせにいける選手でもあり、スタートから1Mまでを「一つの設計」として捉えているのが最大の強みだ。


総括|井口佳典は“勝ちに行く準備力”で水面を制する

井口佳典というレーサーは、戦術家であり、職人でもある。
派手なレースは少ないが、準備・組み立て・遂行能力の高さではSG常連組の中でもトップクラスだ。

彼の強さは、スタート力や技術だけではなく、「勝つための舟足を、勝負どころで確実に作ってくる」点にある。
勝率が安定して高いのも、常に自分のパフォーマンスを最低8割以上で出せる土台を整えているからにほかならない。

銀河系軍団の中で、もっとも堅実にSGタイトルを重ねてきたその実績は、
そのまま彼のレースに向き合う姿勢と準備力の証明でもある。

「勝つべくして勝つ」
それを最も実戦的に体現するのが、井口佳典だ。

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