齊藤仁：粘りと渋さが光る“玄人向け職人派”、展開を制する冷静沈着な捌き屋

舟券を長く買っているファンほど気づいているだろう。SG・G1のような華やかな舞台では主役にならずとも、いつもどこかで着に絡み、記念戦線を陰から支えている職人たちがいる。その一人が、齊藤仁（さいとう・じん）である。

“どの水面でも淡々と着をまとめる”その実力は、多くのボートファンに密かに支持されている。

彼の最大の特徴は、展開を読む力と、それを活かす捌きの技術、そして整備で地道に足を底上げできる実戦力。今回は、そんな齊藤仁選手の本質に迫るため、コース別の戦法や整備傾向、そして選手としての総括を丁寧に掘り下げていく。

◆ 1コース：派手ではないが確実、“渋さで押し切る”逃げ型

齊藤の1コースは、典型的な速攻型ではない。スタートは平均的で、0.14〜0.17あたり。飛び抜けて早くはないが、コンマ台に突っ込むことも少なく、“事故率を抑えながら着を守る”タイプだ。

1マークの旋回もイン屋型の豪快さではなく、どちらかといえば丁寧に回して出口でじわっと伸ばす構え。整備で回り足が仕上がっているときには、1Mの出口で後続を封じ込めることができる。

水面状況が荒れたときや、進入が深くなったときでも崩れにくく、“逃げられそうで逃げるタイプ”の典型例であり、オッズ以上の信頼感を持たれることも多い。

齊藤の2コースは、勝ちに行くというより「崩さず2着を獲る」巧者型。差しを基本としながらも、内の艇が凹めばしっかり握ってくる場面もあり、読みと判断のバランスが非常に良い。

旋回力というよりは、回ってからの艇の立ち上がり、スムーズな姿勢制御に長けており、バックストレッチでの伸び返しが武器。特に差しが決まらなかった場合でも、2マークで内差しや握り返しから順位を上げる力がある。

結果として、2コースからの連対率が高く、「信頼の相手軸」として舟券の安定感を支える存在となっている。

センター戦における齊藤は、いわゆる「攻撃型」ではない。3コースでもスタートを無理に踏み込まず、他艇の動きを見て差しやまくり差しに構える展開待ちのタイプだ。

4コースからはカドに構えることもあるが、まくりに出るのはスリットで大きく覗いたときのみ。基本は、内側が崩れたところを見逃さずに突いてくる、展開読みと旋回技術に優れたタイプ。

また、センター戦での3着率が高いのも特徴のひとつであり、「1着は取れなくても舟券圏内には必ず来る」安心感は、舟券的にも非常に価値が高い。

外枠になると一気に舟券妙味が高まるのが齊藤仁である。5コースでは、センター勢の動きに合わせたまくり差しからの2着浮上が多く、SG・G1戦でも準優に絡むシーンが見られる。

6コースでは展開待ちの姿勢が強いものの、道中の旋回と捌きで少しずつ着を上げてくる粘り強さがある。進入でスローに入れる場面でも、無理に主張せず、あくまで自分のリズムでレースを構築するのが特徴。

総じて、「6号艇だから消せる選手ではない」というのが齊藤仁の外枠での評価であり、外枠からでも3連単の相手に加えたい存在となっている。

整備面において、齊藤は「出足型」や「回り足重視」の仕上げを好む実戦派。直線で伸びを追求するタイプではないが、ターンマークでの安定した操縦を実現するための調整が非常に上手い。

調整の方向性も一貫しており、シリーズを通してコンディションを一定に保つ意識が高い。大きな上積みこそ期待しにくいが、「悪いモーターを中堅まで引き上げてくる」能力は高く、初日から徐々に調子を上げてくる傾向がある。

特に、風が強い日や水面が荒れたレースでは、他の選手が乗りにくそうにしている中でも、齊藤だけはしっかりと“自分のレース”をこなしてくることがある。

齊藤仁という選手は、SGや記念で目立つ派手さや爆発力は持たない。しかし、その分だけ「着をまとめる力」「崩れない技術」「整備とレースの整合性」といった、レースの本質的な力を兼ね備えている。

スタートで無理をしないからこそ、事故が少なく、長く一線で活躍できる。差しや捌きに優れ、展開を読む力があるからこそ、連に絡める機会が多い。外枠からでも軽視されず、「どこからでも舟券になる男」として、長年にわたってファンの支持を得ている。

“地味だが、確かな存在”――それが齊藤仁のレーススタイルであり、プロフェッショナルとしての生き様である。