Boat-Practice

篠崎元志:華麗なスタートと冷静な駆け引きが光る、玄人好みの技巧派レーサー

ボートレースという競技には、選手の「色」がある。豪快なまくりでファンを沸かせるタイプ、イン逃げの鉄板で舟券の軸になるタイプ、はたまた勝ちに徹した冷静な選手もいる。その中で、派手すぎず、しかし着実に“強さ”を見せ続ける選手が、福岡支部の実力者・篠崎元志である。

2005年のデビュー以降、弟・篠崎仁志とともに篠崎兄弟としてファンに親しまれてきた元志は、類稀なスタートセンスとレース勘、そして磨き上げたターン技術を武器に、記念・SG戦線で長らく活躍を続けている。2011年にはG1制覇、そしてSGでも安定して準優出・優出を果たすなど、長くトップクラスの一角を担ってきた存在だ。

ここでは、そんな篠崎元志のコース別の戦術、整備力、そして総合的な人物像を掘り下げていく。


1コース:スタート力と旋回力が支える「安心の軸」

篠崎元志の1コースは、抜群のスタート力とプレッシャー耐性に支えられている。彼の平均STは0.12〜0.14台と非常に安定しており、かつ早めの仕掛けでもヘコまない起こしが特徴的だ。

イン逃げの成功率も記念レーサーの中では高水準で、地元の福岡水面においては70%を超える数字を残すことも。ピット離れやスリットの駆け引きに強く、どんな相手がいても「逃げるときは逃げる」レースができるのが篠崎の1コースだ。

ただし、モーターの機力が劣勢のときは若干不安定になる傾向もあり、調整がハマっていないときのターン出口で甘さが出ることもある。そのため、1コースでも整備状況の見極めは舟券に直結する。


2コース:攻守を見極めた“クレバーな差し”

篠崎の2コースは、「差し」に徹するシーンが多く、内寄りのレーンを丁寧に回すタイプ。他の選手が握りに構える中でも、冷静に差し場を見つけて着を拾う技術が光る。

スリットで攻めるよりは、内枠の様子を見て、勝てる展開でのみ積極策に出る。たとえば、1コースがF持ちやモーター不安ありと判断すれば、しっかり攻めに出るが、そうでなければ2着・3着を堅実に拾ってくる。

「勝ちにはいかないのか?」と思われることもあるが、それこそが篠崎元志の勝負勘。あくまでシリーズ全体を見据えた組み立てを重視する姿勢が、記念やSGでの安定感につながっている。


3〜4コース:冷静な展開予測と高速ターン

センター戦での篠崎の真価は、展開を読む力と高速ターンの精度にある。3コースではまくり差し、4コースではカドからの自在戦を展開するが、無理な攻めに出ることは少ない。

特に3コースでは、まくりに出るタイミングとライン取りの判断力が極めて高く、握ると見せかけてスッと差しに切り替えることも珍しくない。これは日々の練習と実戦の積み重ねがあってこそできる技術であり、若手ではなかなか真似できないレベルの「対応力」だ。

また、4コースのカドまくりも魅力の一つ。スリットでしっかり踏み込んで攻めたときの一撃は強烈で、地元の若松や福岡ではそのまま押し切るシーンも多い。


5・6コース:攻めるより“拾う”展開作り

篠崎元志は5・6コースでも舟券に絡む確率が高く、特に3着・2着の取り方がうまい選手である。展開が崩れたときに最も冷静にレースを組み立て直せるタイプで、他艇のもつれを見逃さない嗅覚が光る。

たとえば5コースでセンター勢が攻め合うと見るや、しっかり内差しに構えて着を拾う。6コースでも、若手のように無理に握るのではなく、展開の狭間を縫ってくる走りができる。これはまさに、経験と技術の証といえる。


整備力:的確な判断と“無理をしない”スタイル

整備力という面では、篠崎は「正確さと無理をしない慎重さ」が特徴。プロペラ調整は得意な部類で、特にバランス型や出足重視の調整に自信を持っている。直線系を追求するよりは、旋回足の良さを重視する傾向が強い。

部品交換も、必要なときには迷いなく実行するが、基本的には“調整でどうにかする”派。これにより、極端なバクチ整備は少なく、シリーズを通して安定した機力をキープすることができる。

一方で、伸び型の整備が求められる場面では若干の苦手意識も見られる。特にエンジン抽選で極端なクセモノを引いた際は、調整に時間がかかるケースもあり、初日〜2日目の様子は要チェックだ。


総括:スター性より実力で魅せる「勝負勘のプロ」

篠崎元志の魅力は、何よりも「ブレないレーススタイル」にある。若いころは華やかなスタートと果敢な攻めが印象的だったが、近年ではより冷静に、そして着実に“勝てる形”を探すレーサーへと進化している。

記念戦線では毎年コンスタントに優出し、SGでも常連の存在。近年SGタイトルを獲得していないものの、いつ取ってもおかしくないだけの技術と精神力を兼ね備えている。

篠崎元志は、舟券的にも「信頼できる中穴」になり得る存在であり、ファンの期待に応える走りができる選手だ。大外でも諦めず、インでも油断せず、あらゆる状況下で勝負を組み立てられる数少ない実力派

“派手さ”では弟・仁志に譲る場面もあるが、「勝負に徹する」姿勢は兄の元志の真骨頂。ベテランの域に差しかかっても、彼の冷静な走りと着取りのうまさは、今後も記念戦線の中核を担い続けることだろう。

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