坪井康晴：静かなる勝負師、“理詰めのレース構築”で勝ち続ける技巧派の鏡

華やかなスタート、派手なまくり、鋭いターンでファンの記憶に残る選手がいる一方で、「着をまとめる」「崩れない」「絶対に消えない」ことで舟券に深く刻まれる選手もいる。その代表格が、坪井康晴（つぼい・やすはる）だ。

年齢を重ねても衰えを感じさせない走りと、全コースでの完成度の高さから、“理詰めの万能型”として評価されている。

彼のスタイルは、一言でいえば「丁寧で論理的、そして勝負強い」。無理はせず、勝つときはしっかり勝ち、負けても崩れない。その“勝ち方”にこそ、坪井の魅力が詰まっている。

◆ 1コース：絶対的安定感、“逃げて当然”を実現する男

坪井の1コースは、派手なまくり逃げではなく、抜群の安定感を誇る押し切り型の逃げ。平均スタートは0.13〜0.15前後で、際立って速いわけではないが、スリット隊形を見ながら冷静に対応し、先マイを確実に決めるのが彼のスタイルだ。

旋回も落ち着いており、ターンマークを小さく回って、出口での出足で後続を突き放す。この「削られない旋回」と「追いつかれない立ち上がり」がセットになっているため、SG・G1戦線でも高いイン逃げ成功率を維持している。

また、たとえモーターが中堅以下でも、整備で出足を作って逃げ切る力があり、舟券的には“信頼の1号艇”として固定ファンを持つ存在である。

坪井の2コースは、差し中心のレース構築が基本。1号艇のスタートや伸びを見て、差すか、握るかを即座に判断する。とはいえ無理な握りはなく、基本は“残しにいく差し”を選ぶ場面が多い。

特に注目すべきは、2マーク以降の捌き力。1マークで競ったあとでも、冷静にバックストレッチで位置を取り、2マークでさばいて2・3着に食い込んでくる技術は抜群。

「2コースからの2着・3着」をしっかり取ってくる選手という意味では、舟券の相手軸として極めて信頼できる存在だ。

センター戦における坪井の特徴は、“どのコースからでも一定の成果を出せる完成度”にある。3コースでは、スリットで出たときはまくり差し、覗けないときは差しに回るという自在戦の王道。

ターンの技術に長けているため、1マークで多少の不利があっても、2マークで体勢を立て直して浮上する力を持つ。4コースでは、カドまくりに行くよりも、内を見て差しやまくり差しを選ぶことが多く、攻めすぎない冷静さが持ち味。

このように、「攻めること」と「残すこと」を天秤にかけ、常に最適解を選ぶセンター戦が、坪井という選手の完成度の高さを物語っている。

坪井の外枠は、決して“捨て枠”ではない。特に5コースでは、センター勢が攻めた展開に乗じて、まくり差しや差しで舟券圏内に浮上するシーンが非常に多い。

6コースからは大外を回っての1着こそ多くはないものの、道中での冷静なさばき、差し返し、内を突くセンスで3着に絡む力がある。大外だからといって展開任せにせず、常に「自分でレースを組み立てる意識」があるのが坪井らしさ。

また、前付けをされて進入が変化するような混戦状況でも、動じることなく外枠から2・3着に入ってくる対応力があり、舟券の3連単相手候補として必ずチェックしておきたい選手である。

整備に関しても、坪井は実戦型に特化した“出足・回り足重視”の仕上げ職人。ペラ調整の精度が高く、自分のターンに合った“乗り味”を再現する能力に長けている。

特徴的なのは、「勝負所で足が上向く」傾向が非常に強い点。初日こそ大きく目立たなくても、3日目あたりから連対率が急上昇し、準優・優勝戦にかけて仕上がってくるのが坪井流の王道パターンだ。

気候や水面に応じた微調整を繰り返しながら、「大きく伸びないが、大崩れもしない足」を作り続ける職人気質。この整備能力が、どのコースからでも舟券に絡んでくる強みの根底にある。

坪井康晴というレーサーは、突出したスピードや個性的な戦術で魅せる選手ではない。だが、全コースでの戦術の完成度、整備による足の仕上げ、道中の捌き、レース展開の読み――そのすべてが高水準でまとまっている、まさに“現代ボートの完成型”といえる存在だ。

無理をしない。だが、勝負どころでは攻める。
派手ではない。だが、消えない。

SGやG1で何度も優出を果たし、常に上位に名を連ねてきた彼のキャリアは、技巧派の最高峰としての道のりそのものである。

年齢を重ねた今もなお衰えず、さらに勝負の“精度”を高め続けている。これが、坪井康晴という“堅実派の到達点”なのである。