土屋智則:静かなる疾走、緻密な戦術と勝負勘を備えた“実戦派レーサー”
ボートレース界には「玄人好み」と評される選手がいる。着実に舟券に絡み、レースの中で確かな存在感を放つタイプ。その代表格が、群馬支部の実力者・土屋智則(つちや・とものり)だ。
1986年生まれ。デビューは2006年で、十数年にわたり安定してA1級を維持し続けている。記念戦線では常に堅実な戦績を残し、レースの組み立てや展開読みの鋭さには定評がある。
本稿では、そんな土屋智則のコース別傾向、整備力、そして総合的なレーサー像について掘り下げていく。
1コース:堅実でありながら“守りに入らない”イン戦
土屋の1コースは、一言で言えば「精度の高いイン逃げ」。派手なスタートで他艇を圧倒するタイプではないが、スリット後の出足や旋回技術に優れ、イン戦で崩れにくいのが特徴。
平均STは0.14〜0.16前後。特筆するような速攻派ではないが、スリットから伸び返すような調整が得意で、1マークでしっかり先マイ→出口で伸びる展開を作る。スタート遅れたとしても、ターン技術と押しの強さでカバーできる場面も多く、1着率は60%を超えることも珍しくない。
また、インでも「守るレース」に終始しないのが土屋の真骨頂。モーターが仕上がっていれば、プレッシャーのかかる相手でも真っ向勝負に挑む胆力がある。
2コース:技術と我慢の“土屋らしさ”が凝縮
土屋の2コースは、極めて完成度の高い差し屋という印象だ。攻めの起点になるポジションでありながら、無理に握らず、1マークでしっかり差し場を探る冷静さが光る。
特に、1コースがF持ちや調整不安な場合には、自ら攻めに転じてまくりを選択する柔軟さもある。2着、3着を着実に拾う安定感があり、「大崩れしない2コース」として舟券戦略でも重宝される。
また、スリットからの反応や踏み込みにブレが少なく、スロー戦における起こしの技術も高い。これは、土屋が選手として日頃から「リズムとフォーム」にこだわりを持っていることに起因する。
3・4コース:展開予測力と旋回力の融合
センター戦での土屋は、「展開の職人」と言っても過言ではない。3コースでは、基本はまくり差し型だが、1マークの展開に応じて握るか差すかを瞬時に判断。これが極めてうまく、「迷いのない旋回」が特徴的だ。
4コースではまくり差し・カドまくりの両方に対応できるが、無理な仕掛けは控える傾向。特に、内が堅いと見ると、自ら攻めずに展開待ちに徹する場面もある。これを「消極的」と見るか「冷静」と見るかは意見が分かれるが、結果的に着をまとめてくることが多い。
センター戦での決まり手には目を見張るものがあり、準優や勝負駆けのレースで信頼できるポジションといえる。
5・6コース:着を拾う計算と、一発の切れ味
外枠に回った土屋は、展開読みと決断力が光るタイプ。無理な握りではなく、内の展開を見て“差す”判断が早く、波乱含みのレースでは外から舟券に絡むシーンも少なくない。
特に5コースでは、センターが動いたときに冷静に差しに構える姿勢が目立つ。また、スロー勢の失速を見極めて最内を突くような捌きも得意。ターンマークの舟の置き所にセンスがあり、無理のない旋回で浮上してくるのが土屋らしさだ。
6コースはさすがに苦戦傾向だが、若手の握り型と違い、展開を読んで3着を拾う粘り強さがある。「舟券的に見切れない6コース」として注目されることもある。
整備力:理詰めの調整と“手応え重視”の職人型
整備面において、土屋智則は理論派で職人肌のレーサー。流行に流されることなく、自分の調整スタイルを持っているのが大きな特徴だ。
プロペラ調整では、出足と行き足のバランスを非常に重視しており、伸びに特化することは少ない。あくまで「自分のターンができる足」を追求し、結果として中堅上位のモーターでも上位進出することが多い。
部品交換については慎重派だが、ピストン交換などを視野に入れる判断力もある。無駄な手は打たず、調整時間を計画的に使いながら仕上げていくため、シリーズ中盤以降に調子を上げてくる傾向が見られる。
これは、彼が「実戦で試してから整備を進める」慎重なプロセスを取っているためであり、派手な調整はないが、堅実な上積みがあるタイプだ。
総括:派手さはなくとも“勝負に強い”、信頼される実戦型レーサー
土屋智則は、ボートレースにおける信頼と実力のバランスを体現する選手であり、長くA1級に定着し続けること自体がその証明だ。
レースでは常に冷静で、必要以上に攻めない分、安定した結果を出す。
特に、着を拾う技術、旋回時の判断力、調整力のバランスはトップクラスで、若手選手にとっては見本となるような走りをしているといえる。舟券戦略でも、「軸にするより絡めて買いたい選手」として重宝される存在だ。
土屋智則のような選手こそが、ボートレースの「深み」を支えている。