吉川元浩:静かなる王者、“スタート力”と“整備眼”で時代を築いた西の大黒柱
ボートレース界において「速い選手」は数多く存在する。しかし、“速くて強い選手”、そして“長く強い選手”は極めて稀だ。その数少ない例外の一人が、吉川元浩(よしかわ・もとひろ)である。
彼の代名詞は、トップクラスのスタート力と整備技術。そして、何よりも“自分の勝ちパターンを完全に理解している”点にある。
本稿では、そんな吉川元浩のコース別戦法・整備スタイル・総括から、なぜ彼が「令和でも勝ち続けるベテラン」であり続けるのかを紐解いていく。
◆ 1コース:SG級のスタート力で押し切る、屈指の逃げ巧者
吉川の1コースといえば、高精度なスタートと速攻型の旋回力で押し切る、逃げの完成型スタイル。特にSG・G1級の大舞台でも、スタートを揃えてくる精密さは、長年のキャリアで磨き上げられた強み。
ターンマークの処理も極めて鋭く、やや外から強めに握って旋回しながらも、立ち上がりの出足と出口の加速で後続を寄せつけない。
モーター性能が中堅クラスでも逃げきることができるのは、「整備で必要な足を作り切る力」×「絶対に先手を取るスタート」があるからこそ。
1号艇の吉川は、舟券的にオッズが付きにくい存在ではあるが、信頼度という点では未だにトップクラスである。
◆ 2コース:スタートと技術が生む“差し切り型の美学”
2コースでは、吉川の読みと差しの精度の高さが際立つ。スリットで1号艇を睨みつつ、0.12あたりのスタートでしっかり前を取ったうえで、最短距離の差しに構える。
この差しが非常に上手く、出足型のモーターに仕上がっていれば、1マークの出口で逆転するパターンも多い。特に、“艇を流さずに差せる”技術は、若手の追随を許さない。
差して届かない場合でも、2マークで握り返して逆転するパターンがあり、「1着ではなくても2着は残す」ベテランらしい勝負感が舟券に大きな価値を生み出している。
◆ 3・4コース:スタートで主導権を握る、“強気の攻撃型センター”
吉川元浩の“本領”とも言えるのがセンター戦。特に3コースでは、0.10前後のスリットからまくり差しを決めるパターンが多く、記念やSGでも勝負どころで1着をもぎ取る勝負強さを誇る。
4コースからのカド戦でも、スタートが揃えば一気にまくる、あるいは伸びに寄せた調整で仕掛けに出るなど、“一撃”の怖さが健在。
ただし、無謀な全速まくりではなく、スリット隊形や内の出足を見極めたうえでの仕掛けが多いため、事故率が低く、舟券に組み込みやすい“安心感のあるセンター攻撃型”といえる。
◆ 5・6コース:展開力と捌きで連に絡む、外からも怖い存在
吉川の外枠は、穴党にとって見逃せないポイント。特に5コースでは、センター勢が攻めたときのまくり差しで突き抜けるケースが多く、ベテランらしい展開読みと艇の扱いの巧さが光る。
6コースでは勝率は落ちるものの、スローの乱れを突いた一撃や、展開がごちゃついた際の差し・道中捌きで浮上してくる力がある。6着が極端に少ないのも、吉川の実力の証。
また、整備力で足を上積みしているときは、6コースからでも2着まで浮上することがあり、「舟券に入れるべき6号艇」としての評価は非常に高い。
◆ 整備力:ペラ職人×感覚派、仕上げの“引き出し”はSG級
吉川元浩の整備力は、選手の中でもトップクラス。特にプロペラ調整の精度と自信に満ちた判断力は、「ペラで戦う男」としてファンの間でも有名だ。
レースごとに気温・湿度・風速を見ながら回転数を調整し、直線に寄せるのか、出足を取るのかを“勝負のカギ”として見極められる点が強み。さらに、キャブ調整やピストン交換など、シリーズ中に手を入れるタイミングも的確。
調整は“自分で戦える足にする”が前提で、整備段階からレースの組み立てを意識しているのが吉川流。「自分の走りに必要な足」を引き出す職人技は、近年の若手にはない“強み”であり、今なお記念戦線で安定して戦える土台になっている。
◆ 総括:“真の総合力”を体現したレジェンドレーサー
吉川元浩という選手は、派手さや話題性で勝負するタイプではない。だが、スタート・整備・レース展開すべてにおいて“正解”を引き出し続けてきた本物の勝負師である。
すでに50歳を超えた今もなおSG戦線に顔を出し、若手のスピード型と互角に渡り合うその姿勢は、「ボートレーサーとしての理想形」のひとつと言える。
彼が勝つとき、それは“勝つべくして勝つ”レースが多い。スリットでリードを奪い、ターンで引き離し、整備で負けない足に仕上げて、淡々と勝負を決める。
ベテランの味、熟練の整備眼、冷静な勝負勘――
吉川元浩は、令和のボートレースにおいても、なお“王道の強さ”を体現し続ける存在である。